クルマが変わる クルマづくりが変わる

快走!新型プリウス TNGA第1号車

 TNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャ=クルマ開発の構造改革)の第1号車、新型プリウスが快走している。日本自動車販売協会連合会の車名別乗用車販売台数調査によると、昨年12月から連続6カ月トップをひた走る。5月の販売台数も前年比245.2%の2万1527台で、昨年1年間の覇者アクアを引き離す。「今、ご注文をいただくとグレードによっては2~3カ月待ち。早急に待ち時間の解消に努める」と、同社はフル生産で対応している。その人気は何か。「新型プリウス」の開発責任者、トヨタ自動車のチーフエンジニア豊島浩二氏に、約3万点のクルマ部品の一つから作り直した挑戦の数々をお聞きした。(4月26日トヨタ自動車本社で)。

トヨタ自動車豊島浩二氏

 1985年入社。六代目カローラのアッパーボディ設計、七代目マークⅡ、九代目クラウンの燃焼系部品設計、三代目セルシオ、アルテッツァの排気系部品設計などに携わる。第1開発センターZF主幹として四代目LS460/600hの製品企画(ボディ/デザイン/プラットフォーム)を担当。第1トヨタセンターZB主査として欧州小型商用車の開発責任者を務める。BR-EV開発室では、主査として次世代環境車戦略企画をまとめる。製品企画本部ZFチーフエンジニアとして2011年より新型プリウスの開発責任者を務める。2016年4月18日よりMSZチーフエンジニア、現在に至る。

―生産拠点はどこで。
 「現在は、国内では堤工場です。まさしくmade in japanです。部品は色々なところから購入していますが、最終生産工場は堤工場です。元々、4代目プリウスの企画を始めたのが4年半から5年前くらい。その時1ドル80円ぐらいでした。日本で作って輸出するには大変厳しい時代で、当時は新聞にプリウスもついに海外生産かと書かれたりしました」。

―大変でした。 
 「サプライヤーさんを含めて頑張ったのが『日本に生産を残す』ことでした。また、プリウスは国内で年間150万台販売したいという目標に対し30万台強、全車種の1割を占めます。さらに、国内生産台数は、年間300万台を維持していくなかで30万台がプリウスですから、外に出ていくとなるとインパクトがありました。しかもプリウスは日本で生まれ日本で育った環境車です。やはりmade in japanがあるべき姿でした」。

―その壁を破ったのは。 
 「TNGAです。いいクルマをつくって、たくさんのクルマに共用する。たくさんのクルマに使えるからものが集まる、ものが集まるから『ものづくり改革』ができる、TNGAの基礎です」。

―具体的には。 
 「当時の基本目標は『ここまでやらないといけない』と、日本でクルマを作り続けるための改革をしました。例えば、各サプライヤーさんには『一緒に頑張りましょう』といい続け、設計に対しても図面を作るだけでなく、組立で部品をひっくり返すような工程を一緒になって一方向に書き直し組立をスムーズにできるようにしました。この部品はこうしましょうと生産も含め効率というところでコスト目標を決め、設計・製品・製造が一体になってやり抜きました」。

―コンセプト合わせが大変なのでは。 
 「『僕は安くしたい』と言っても『安くしたい』だけでは判らない。それは、企業として当たり前で、仕入れ先の都合もあるし、外から購入しても同じ方向にはならない。そこで、一つはTNGAでクルマづくりを変えるという中で、効率化を図りました。もう一つは、プリウスは日本でつくり、世界で戦えるクルマにしたい、このままで行くとプリウスは、外に出て行ってしまう。外に出したくないと、仕入れ先に訴え続けました」。

―日本のものづくりに影響するターニングポイントでした。 
 「お陰様で、皆さんのご協力をいただき、また頑張りで、TNGAに応えることができました。開発だけでこのクルマができたのでなく、ものづくり全体で大きなチャレンジがあったし、原価という意味でも一緒にやれました」。

―クルマづくりの理想に近づけた。 
 「一歩入ったかな。ただ、それも初のトライですから、それが本当に良かったかどうかこれからです」。

―最も神経を使われたのは。 
 「企画とは人・物・金。ここをきちんと管理しなければならない。例えば、先程申し上げたコスト。ある意味ではクルマを如何にリーズナブルに良いものを作っていくか、これがお客様にとって一番喜ばしい。先ずそうした考え方で、これくらいのコストで、これぐらいの性能のものを作ることを決める、ここが一番の苦労でした」。

―価格設定が先に。 
 「ハイブリッド車としてプリウスの上にカムリ(税込322万円から)があり、その下にカローラ(フィールダーで同219万円から)やアクア(同176万円から)がある。そのプリウスの価格帯の中で、お客さんに喜んでもらえるものをいかにつぎ込むことができるか。同じものを同じ価格で作るのは簡単ですが、同じ値段でなくお客様にどれだけ付加価値を付けられるか、ある価格で新仕様車を作るのをコンセプトにしました」。

―ここだけはキープする、というものがあった。 
 「トヨタの乗用車の中でプリウスはど真ん中にあります。そのど真ん中のクルマのお客さんに対する付加価値をどこまで上げられるか。その一つが環境であり、走りが良い、装備品も含め今までプリウスに付いていなかったものが同じ値段で付いているところに置きました。そうすると下のクラスも並行して同じように上がってくる。TNGAで一番先頭だったので、そのど真ん中をどこまで上げられるか、が僕の仕事だと思っていました」。

―部品でいえば。 
 「例えば、HVユニットは、燃費だけでなく走りの楽しさ、安心で、安全で楽に運転できること。長時間運転しても疲れないことを目指しました。つまり、クルマを低重心にし、自分の意で動くようにしました。カーブを切った時にこのラインを通りたいということに対し、今までは余分にハンドルを切って戻すことをしなければそのラインに乗れませんでしたが、今回はハンドルを切った分だけ、クルマと一体感でカーブが切れるようにしました。シートに対しても腰に負担がないなどすべて見直し、いろんな積み上げをやって、それが低重心になりました。この低重心をやることで安全・安心を作り出すことができ、プリウスの目指す環境性能、地球環境に応えました。また、社会環境でもTNGAのプラットフォームを取り入れました」。

―社会環境とは。 
 「クルマは事故を起こします。その事故を起こさないクルマづくりが最終目的です。クルマを作っている者にとって、当然、環境を壊さないことは大切。ここにプリウスの生まれた理由があり、2番目は、まだやっている最中ですが、今度は、クルマ本来の事故を克服しなければならない課題への挑戦です。運動性能を上げれば、事故も減ります。その中に予防安全としていろんなセンサーでぶつからない、ぶつかっても中に乗っている人は強固な車体で守られる。ここには生産技術のチャレンジがあって、ホットスタンプ材の使用を拡大するなどして、骨格を強化しました」。

―製造改革ですね。 
 「ドア回りのピラー部分は今までいろいろ分割していましたが、分割すると分割部分に接合面ができます。衝突をすると、そこに影響がでます。そのため、一体構造を採用しました。一つも継ぎ目のない板にするためプレスのチャレンジや今回レーザー溶接をしました。レクサスは、強度を求める部分をレーザーで行っています。プリウスも今回、従来比で30%多く使い、剛性を高めました」。

―新型プリウスの魅力を一言でいうと。 
 「TNGAで走りが良くなったがプリウスじゃないねと言われてもだめです。また、『走りが良くなったがそれだけ』、といわれてもだめです。今回は、自分善がりでなく、誰が判断するかと言えばお客様が『あっ変わった』といっていただけるところにプリウスのチャレンジがありました。『プリウスが変わった』といわれれば、ここからトヨタが変わって行くという意味でも、プリウスは先駆けなのです。ハイブリッドを先駆けてきたし、3代目で『環境車とはこうあるべき』という先駆けにもなりました。4代目を出すに当たっては、HVはもはや普通のクルマになりつつありました。トヨタの変革につながるようクルマづくりに取り組んだ結果がTNGAの第1号車としてのプリウスです。そこに魅力が詰まっています」。

 (新型プリウスの開発には、トヨタ自動車だけで約3千人以上のエンジニアが関わった。TNGAを理解し、第4世代プリウスを作り上げた。そして、既に違ったクルマの開発に係わっている。そのTNGAの考え方が、最終的にはトヨタ全体に広まって行く、泥臭い開発、泥臭い改善をした、と豊島チーフエンジニアは笑った。2011年から2015年12月の開発に係わった約5年間は「実に楽しかった」と、結んだ。超多忙の中、取材にご協力いただき感謝と御礼を申し上げます)。

日本産機新聞 平成28年(2016年)7月5日号