耐熱合金を「快削」する

メーカー各社が新製品

耐高温、びびり抑える機能

 軽量(比重4.51、密度は鋼の約60%)で、丈夫(高強度、~1800MPa)、耐食性にも優れる材料として耐熱合金が近年、用途を拡大している。

 主な需要先は、航空機エンジン(写真①)はじめ産業用ガスタービン、自動車のエンジンバルブ(写真②)やピストン、さらには自転車のフレームやギア(写真③)、オートバイマフラーといった産業用分野の他にゴルフクラブヘッド、眼鏡フレーム、人工股関節部材、インプラントといったスポーツ・レジャー用品、医療・福祉分野にも跨り、機械加工は欠かせない材料の一つになっている。

 ところが、難点いくつかある。希少価値材料であること、価格が鉄やアルミ比べ格段に高く、機械加工ミスは許されないこと、切削加工が容易でないことなど。切削工具メーカーは、製品・技術開発に凌ぎを削っている。最近の耐熱合金の動向と用途と加工例をまとめた。

①トレント1000エンジンの 中空圧縮機モジュール

①トレント1000エンジンの
中空圧縮機モジュール

 
②自動車エンジン内のチタンバルブ

②自動車エンジン内のチタンバルブ

 
自動車ギア

③自動車ギア

削りにくい(難点)と軽量、丈夫、耐食性(利点)が用途拡大

ニッケル基、コバルト基、チタン・・・

 代表的な耐熱合金は、チタン合金はじめインコネル合金、ニッケル基合金、コバルト基合金…といった難削材中の難削材が上げられる。
市場規模は、機械統計にないため不明だが、主な超硬工具、特殊鋼工具メーカーに聞くと、「年間売上高の数%を占める」とするところもあれば、「現在5、6%を占め、航空機向けに加え自動車、家庭用燃料機器向けなど利用範囲が拡大中」とするところもある。

 また、ある工具メーカーも「航空機ジェットエンジンの生産増が好調。タービンブレード(写真④)やディスク(写真⑤)、ストラッドなど、エンジンの主要部品は生産増にある」と、耐熱合金市場の拡大を見込んでいる。

④航空機用タービンブレード

④航空機用タービンブレード

 
⑤航空機エンジンのディスク

⑤航空機エンジンのディスク

 需要先は、多忙になっている。例えば、航空機エンジンの生産。米国や英国など5カ国のメーカー7社(日本はIHI、川崎重工業、三菱重工業の3社)で共同開発した中型旅客機のターボファンエンジンV2500の生産は、エアバス320やボーイングMD90に搭載され、これまでに6000機にのぼる。

 最近は、オーバーホール需要も大きく、V2500のファンフレーム(チタン合金、直径1.6m、厚さ0.4m)やファンケース(チタン合金、直径1.8m、厚さ1.3m)を生産するIHIは「新たに生産するものとオーバーホール需要で生産現場は超多忙」としている。

 このベストセラー機、V2500は今、米プラット・アンド・ホイットニー(P&W)の新型エンジンPW1100Gに引き継がれ、IHI、川崎重工業、三菱重工業の3社では日本航空機エンジン協会(JAEC)を通じて共同開発が進められている。

航空機は年率5%増
 IHIはじめ川崎重工業、三菱重工業、富士重工業の4大航空機部品メーカーに)需要動向を聞くと、異口同音に「ボーイング、エアバスは、年率5~7%増の需要増を見込んでおり、日本市場は潤う」と見ている。

 裏付けもある。日本航空機開発協会(JADC)のジェット旅客機の需要予測(2015年3月時点)によると、「20席以上のジェットエンジン旅客機の生産は1万9208機、20年後の2033年にはロードファクターの増加、機材の生産性向上もあり、現在の1.9倍、3万6769機」を予測する。つまり、今後、20年間に3万2217機分が生産される計算になり、年間にすると1611機の旅客機が生産される。

 この中には、三菱航空機(愛知県豊山町)が今年9月から10月に初飛行を計画する国産初の小型ジェット旅客機「MRJ」(三菱リージョナルジェット)の生産も加わる。MRJの受注機数は4月末時点で407機(確定223機、オプション160機、購入権24機)となっている。

耐熱合金を削る
 IHIは、「金属を金属で削っているから、表面の組織をむしり取ることになり、残留応力でかなり変形する。しかし、我々は長い経験で、まん丸のものをまん丸に削るノウハウを持ち、今や難削材は快削材になっている」というところもある。

 また、同社は、スリーセブンで知られるボーイング777に搭載のG90のディスク(直径1m200を7段)を月産20枚、枚数にして計140枚を生産する。この難削材の生産について「仮に他の会社が、同じ機械、同じ工具を使って削っても、うちと同等のディスクは作れない」と自負する。具体的に聞けば、「薄いディスクをまん丸に変形させないで削るのは、簡単のように見えてなかなかできない。何処からどう削り、次は何処を削って行くか、工程がノウハウ。我々が負けていないのはそこ。工作機械と工具はその特性を生かす快削の道具」と位置づける。

 また、航空機エンジンや産業用ガスタービン部品を専門に加工するメーカーでは「80%以上が難削材で、うちニッケル基合金が25%、コバルト基合金とチタン合金がほぼ同じ12%を占める」としている。

 また、同社は、耐熱鋼を5軸マシニングセンタで加工し、「特性部品ごとにセル化を構築し、現在8セルはフル稼働中。難易度の高い部品の一つ、ニッケル基合金は、高温強度が大きいため工具寿命が短く、切削抵抗が大きく、加工時間も掛かる」ことから同社の高度な技術で克服しているという。

チタン市場が大きい
 耐熱合金の中でも、チタンは市場の多くを占めている。
 チタン生産量の多い神戸製鋼所によると、耐食性に優れ(海水には完全耐食)、軽くて高強度(ステンレスの60%の軽さ、純チタンで275-735MPa、チタン合金で620-1800MPaの引っ張り強さ)、弾性に富む(ステンレスの約50%の縦弾性係数)、低温靱性に優れる、低い熱伝導率(アルミの約8%の熱伝導率で、ステンレスと同等)、昇温しやすい、生体適合性に優れる(体内でのイオンの溶出が少ない)、肌にやさしい(メタルアレルギーに対し優れた抑制効果)などの特長があり、熱交換器、航空機エンジン、ゴルフクラブヘッド、液体酸素タンク、金属溶湯用治工具、鍋・フライパン、人工骨・歯根・心臓弁、腕時計・ネックレス・メガネフレーム、カメラ・パソコンの筐体など広範囲な業種に活用されている、という。

 国内の需要は、リーマンショックの2008年の翌年を除けば、ほぼ23~25万t前後となっている。

難点は加工
 一方、チタンの難点は、価格が鉄やアルミ材に比べ格段に高いこと。また、一般的に容易に切削加工ができないことが上げられる。日本市場は、電気、自動車などの量産加工は現地生産に移行し、極端に言えば、多品種変量生産(国内生産)と難削材加工が残った。

 このため、難削材加工は日本の差別化に繋がり、今後「難削」を「快削」にすることで競争力を高めることが重要になる。切削工具メーカー各社が耐熱鋼向け工具を開発している背景はここにある。
 
  耐熱合金とは  

抜群の耐蝕性と高温強度

 650℃以上の高温度で、耐食性及び高温強度の優れた合金のこと。ジェットエンジンは、タービン入口ガス温度が高いほど効率や比推力が良くなるため、燃焼室やタービン、排気系統には主に耐熱合金が使われ、ジェットエンジンの進歩は、これら耐熱合金の開発に掛かっているといわれている。

 現在、主として使われているのは、ニッケル基とコバルト基の耐熱合金であり、1200℃程度まで耐えることができる。ボーイング747のJT-9Dエンジンは、燃焼室関係にニッケル基(ハステロイ系)、タービン関係にニッケル基(インコネル系)、コバルト基(ステライト系)などの耐熱合金が使われている。チタンは、軽く、丈夫で、耐食性に優れている材料として、あらゆる産業の用途として使われている。

 

日本産機新聞 平成27年(2015年)5月15日号