鉄道輸送   高速化に応える「安全技術」

「安全」は「教育」で作られる

★インタビュー(神戸工場長、鈴木道人氏)。_R

 鉄道車両ファンならずとも試運転や営業運転開始、現役引退セレモニーの日は、プラットホームや撮影スポットに多くの人が詰め掛け、カメラのフラッシュが光る。鉄道にはロマンを掻きたてる魅力があるようだ。今回の鉄道車両特集は、その車両の重要製品、ブレーキシステム、ドア開閉装置、レールポイントの除雪装置、シート回転装置などを製造するナブテスコ神戸工場(兵庫県神戸市西区)を訪問し、華やかな鉄道車両の縁の下役を担う生産現場報告を行なった。インタビューは鉄道カンパニー神戸工場長・鈴木通人理事に部品づくりの現況をお聞きした。「安全」は「教育」の上にある、とする鉄道車両の舞台裏は5Sの徹底とスキル作りが行なわれていた。(ナブテスコ神戸工場訪問記と併せてお読み下さい)。

面粗度4/100から1/1000mm

―鉄道車両の部品づくりで最も大事にしているのは。
 「安全を確保し、運行を止めない定時輸送の信頼性につきます。車両製品の生産現場では、何よりもミスを起さないこと。そして、品質を維持する。つまりスキルを身につける教育が欠かせません。特に組立は自動化ラインでなくセル方式で人手作業がほとんどで、作業者スキルに頼るところが多く、ミスに繋がる場面があります。そのため、常に基礎知識の教育とそれを補完するシステムをきちんと運営することが大事です」。

―具体的には。
 「前回取材をしてもらった2010年頃は、組立課が教育道場を始めた頃で、今は機械課でも年2回、測定ならマクロメーターの使い方、課題サンプルの測り方を全作業者が行い、技量を上げることに繋げています。実習後は、試験を実施し、採点を公表しています」。

―成果はありますか。
 「改善に繋がるケースがありました。それまでの機械加工は、最終検査工程で、検査員が検査をしていました。改善のために撮影したビデオを見ると、作業者も自分でチェックをしており、二重チェックが分かりましたのでムダをなくすためにチェックシートを設け、自分で測定し、合格したなら合格したものを次の工程に送り、工程ごとで異常を発見する仕組みにしました。今まで最終工程まで行って不良品を見つけていたものが、直ぐその場で発見できるようになりました。これは、全員が同レベルで検査ができなければいけないと言う教育の改善によるものです」。

―測定現場にある①~⑱のリング形状で何を。
 「自分たちで作り計る見本です。答えがここにあり、これで答え合わせをする。新入社員はもとよりベテラン社員も年1回教育を受け、新入社員は基礎を、ベテラン社員は基本を思い起こしてもらうようにしています。つまり、継続して基本を学ぶことでスキルを高めます。作業手順では、図面の見方を教えます。教育と試験を実施し、ここでも採点を公表します。今、表示しているのは、始めたばかりなので点数は低い(と言っても平均83点。優クラス)ですが、繰り返すことで点数を上げるようにしています」。

―個人名で点数をオープンにするとは厳しい。
 「向上心、向学心に欠かせません。また、次にチャレンジするキッカケでもあり、先輩・新入社員が一緒になって点数を上げる仕組みにもなっています」。

―他にどんなことを。
 「表面粗さ検査をしています。一つは、粗度見本(粗さ実測値と工具・粗さ実測値)を写真表示し、例えば平面研磨機で砥石加工の場合の粗度がRa0.12、Rmax1.20などと目視サンプルを幾つか表示しています。また、判定サンプルを置き、平面と凹面の粗さを100分の4から1000分の1ミリまでを感覚的に分かるようにし、身に着けてもらっています。部品は、段取りをして着脱すれば製品ができ上がりますが、その時の状態で出てくるものが違います。その異常を感じるのは人間です。その感覚を磨く。まだ完璧ではありませんが、面粗さを見て100分の1か100分の2かを養うことも地道にやっています。繰り返してやることで感覚を身に付ける。全体のレベルを高めることを日常に中で見につけられるようにやっています」。

―組立道場は。
 「3階が組立工場で、そこでも教育用のマニュアルに基づき実施しています。例えば、5S、品質管理、工具使用方法、実作業、改善作業など教育内容・期間、教育受講カルテを掲示し、実施しています」。

―具体的に。 
 「教育内容、期間を設け、安全について、5S活動について、現場の品質管理、工具使用方法、基本マニュアル(教育と試験)、現場の品質チェック、実作業、改善作業など時間を決め、受講対象者別に行なっています。例えば、新入社員・期間従業員・実習生は全項目を59時間(約9日)受けます。社員は年1回基本作業マニュアルに基づく教育と試験を受ける。その他、現場への転職者、間接への転職者、クレーム発生者別に教育をしています」。

―木目細かいですね。 
 「簡単な組み立てもします。コネクターを付ける組立では、マニュアルを見て時間を決めてやります。良く見ないと少しずつ間違い探しみたいに部品の向きを変えてありますので間違います。ベテランが思い込みでやるとミスをする、きちんと図面を見ないと間違えることを実体験させています。約2週間掛けてひと通り行ない、試験で80点にならないと道場に残り、基本作業をきっちり身に付けてもらいます」。

―IHIや川崎重工業の航空機エンジン工場の「ものづくり道場」とよく似ています。
 「簡単なものもあります。立て7文字、横10行、計70文字のひらがなに《てつどう》という4文字を探し○印を付けなさい。簡単なことから発見する遊びのようなもので、パッと見て判別させる能力を同時に身につけさせることをしています。先日、学校の先生方が社外研修に来られ、最後に先生に通信簿を渡しました。先生方には大変に喜んでもらい、教育の大事さを感じた次第です」。

―この教育制度こそ貴社の「安全」姿勢ですね。 
 「一昨年4月に工場長を引き継いだ後、大きく変えたことはありません。振り返れば、1998年にここ神戸工場に移って来た当時はナブテスコの中での一番悪い工場と言われていました。通路はもので溢れ、無駄の多い工場でした。2008年くらいからトヨタのコンサルタントの人に来てもらい5Sからやり直し、基本的にこの流れは切れることなく継続的にやっています。直近では、工場内にモニターを設置し、情報の見える化を図っています」。

―教育と情報を結ぶ。
 「2010年からJコスト(時間とコスト)活動をはじめ、工場内の製品の滞留をなくすことを徹底的に行っています。その中に物と情報の流れ同期化しスムーズにする。当然、物は指示(情報)があって動く。情報が停滞してしまうと物が止まってしまう。情報をタイムリーに流すことと工程進捗は工場の中で誰もが見える状態にしています。機械課の進捗管理システムを組立課にも展開し、最終的にリードタイムの短縮に繋げる。物が工場内に入って出て行くまでの期間を短くし、キャッシュフローを良くさせる。5Sの最後の《躾》で人を教育する部分があって決めたルールを守ることと品質を繋げています。そのために現場教育のレベルアップを図っているところです」。(一つの部品の欠陥で大事故に繋がる鉄道車両づくりこそ「教育」が最重要課題とする鈴木工場長の熱弁に感動し、ここでは「教育」=「安全」についてまとめた。その生産現場報告は2面をお読み下さい)。


鈴木通人氏の略歴

1985年4月 日本エヤーブレーキ(現ナブテスコ)入社
1999年1月 同社車両事業部神戸工場製造部組立係長
2002年4月 同社車両事業部神戸工場製造部生産管理課長
2004年10月 ナブテスコ鉄道カンパニー神戸工場プロジェクト管理Gリーダー
2006年6月 同社鉄道カンパニー神戸工場製造部生産管理課長
2011年6月 同社鉄道カンパニー神戸工場製造部長
2012年4月 同社鉄道カンパニー神戸工場管理部長
2013年4月 同社鉄道カンパニー神戸工場長
2014年6月 同社理事 鉄道カンパニー神戸工場長兼管理部長(現在に至る)


日本産機新聞 平成27年(2015年)12月15日号